口唇ヘルペス再発が原因でヘルペス脳炎になる事も
2019年10月16日ヘルペス脳炎は急性脳炎の代表的な種類に属しており、病態の深刻さから全国500の医療機関で毎週報告が義務付けられている疾患です。単純ヘルペスウイルスには、口唇ヘルペスを引き起こすHSV-1と、性器や肛門周辺に水疱を発生させるHSV-2の二種類からなっています。ヘルペス脳炎はHSV-1とHSV-2の原因によって、あるいは年齢(新生児・年長児・成人)によってかなり異なる病態を呈するのが特徴です。口唇や性器などの病変部から、いかにしてウイルスが脳に到達するのかについては主に3つのルートが存在すると見る見解が有力です。鼻などの上気道から鼻のおくにある臭覚神経を経由して脳に到達するルートと、血液の流れに乗って脳血液関門から脳に到達するルート、そして感染した神経節をさかのぼり中枢神経が存在する脳にいたるルートの3つと考えられているのです。新生児では脳全体に炎症をきたす全能型がおおいとされる一方で、年長児や成人では大脳の辺縁系にウイルスが到達して炎症を来たすなどの特徴が見られます。
HSV自体は極めてありふれたウイルスで、感染形式には口唇ヘルペスを発症した親などの唾液との密接な接触や、性行為感染などが一般的です。HSV-1感染は2歳頃にピークを迎え多くは6歳までに感染するものと推定されているのです。他方でHSV-2感染は思春期以降の性行為がきっかけになるのが通常で、15歳以下でのHSV-2の感染率は1%以下とされています。年長児や青年でヘルペス脳炎の原因となるのは、口唇ヘルペスを引き起こすHSV-1の再活性化によるものとされているようです。
ヘルペス脳炎は2-12日間ほどの潜伏期間のあとに、発熱や痙攣・異常行動などを引き起こします。異常行動は炎症が発生している部位によっても異なりますが、放置すれば重症化し意識障害から昏睡・心停止と死亡の転帰を辿る可能性もあります。発熱や痙攣など初発症状から深刻で、意識障害などは脳幹部位の炎症を示唆するもので、適切な治療を品限り死亡率は非常に高く、重篤な後遺症が残ることも決して珍しくありません。アシクロビルなどの抗ウイルス薬が開発される前は、死亡率は80%にものぼり、回復しても後遺症に悩まされることになった訳です。抗ウイルス薬の使用が普及している現在では死亡率は大きく低下していますが、現在でもなお10%前後の死亡率とされているのです。ヘルペスの経験があり、痙攣や異常行動など中枢神経症状が出た場合は一応、ヘルペス脳炎の可能性を検討する必要があります。